破伞长庵原名:破れ傘長庵,
江戸の町医者良伯のもとで見習中の長蔵には、普通人では到底考えも及ばないほどのず太さと賢さがあった。猛毒を仕掛けた猫を料理して吝坊の良伯や小僧に食べさせ、けろっとして工合を見るという男だった。良伯の養女お加代だけにはかねて好意を抱いていたが、夜ともなれば質屋の後家さんの伽ぎを勤めてはお小遣いを貰い、何くわぬ顔で女中にも手を出すという達者なところをみせていた。良伯は器量よしのお加代を利用して出世を目論んでいた。それを知った長蔵は腕ずくで彼女を犯し、激怒して破門を命ずる良伯から口止め料を強請り取って姿を消した。それから数年、浅草の露地に村井長庵と名乗る町医があった。面構えも一変して貫禄を備えたかつての長蔵である。表向きは善行を装う彼も、裏では地廻りの御家安を手下にあいも変らぬ悪業を続けていた。なじみの深川芸者小鶴が金満家の唐木屋に囲われたと知るや、この男を...