女人的旋涡、深渊与湍流原名:おんなの渦と淵と流れ,又名Whirlpool of Flesh
英文学者沼波敬吉は、昭和十三年大連で妻須賀子と結ばれた。須賀子は貞淑な妻だった。敬吉は倖せに酔い、須賀子を相手に文学論をぶち、芸術を語った。敬吉にはそれが得意でもあったのだ。だが、須賀子はそんな話には無頓着であった。それを知ってからの敬吉は、自分の学問への理解と励ましを妻に求めるのをやめた。そして、醒めたもう一つの眼で妻を見るようになった。結婚して五年程たったある日、友人の小説家田所が大連の敬吉を訪れたとき、須賀子が田所を誘惑しようとしたのを見て、敬吉は妻の**の深い淵にもう一人の女の影が生きていることを知った。終戦の混乱で、大連の日本人の生活は苦しかった。須賀子も社宅で小料理屋を始めた。客の中には須賀子めあてに来る人も多かった。的場、瀬川もそんな客であった。潔癖な敬吉は以来、須賀子を抱くことを拒絶した。昭和二十二年金沢に帰国した二人は、須賀子が小料...