サラリーマンの歌
北上川の畔り、盛岡在の一高校恒例の職員*労会が土地の料亭でひらかれる。席上、血気の本田教員は校友会費を芸者あそびに使う不当をなじって、座を蹴った。英語教師安西はその一途に社会の汚濁へ歯むかう若さにかつてのじぶんを視る思いがし、本田をわが家に伴いかえったが、話はいつしか回顧談となるのだった。--三年前、安西は妻の伸江、駿、千栄子の二人の子供とともに都営アパートに住み、兜町の証券会社に脱税事務係として勤めていた。じぶんの仕事への憤懣がある日税吏接待の席上で爆発し、社長に辞表をたたきつける。すぐ後悔したものの、もう取返しつかず、笑顔でむかえる伸江に真相を告げることもかなわなかった。ボーナス目当に約束した二輪車やお人形を、毎日子供たちに催促されるけど、退職手当も出ぬとあっては、泣きたいような思いである。彼は毎日ウソの出勤をしては職さがしに奔走した。折からの猛...